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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2893号 判決

原告(反訴被告)

株式会社エスコリース

右代表者代表取締役

平 山 秀 雄

右訴訟代理人弁護士

田 原 昭 二

被告(反訴原告)

日本バスターズ株式会社

右代表者代表取締役

木 島 芳 邦

被告

木 島 芳 邦

右被告両名及び反訴原告訴訟代理人弁護士

高 橋 峯 生

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、金一三七七万八000円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで年一四.六パーセントの割合による金員を支払え。

二  反訴原告の反訴被告に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを二分し、その一を本訴被告らの負担とし、その余を反訴原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の主張

[本訴]

一  請求の趣旨

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

[反訴]

一  請求の趣旨

1 反訴被告は、反訴原告に対し、金一四一五万八000円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二  当事者の主張

[本訴]

一  請求原因

1 リース契約

原告は、リース業を主たる目的とする会社であるところ、昭和五八年一二月三日、被告日本バスターズ株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、バスマット製造用ミシンMCICI六本針(ゲージ8m/m)二0台及びMCICI一0本針(ゲージ8m/m)二台(以下「本件リース物件」という。)を訴外アイコー産業株式会社(以下「アイコー」という。)から購入して、次の約定で被告に貸し渡す旨のリース契約を締結し、右契約に基づき、原告は、同日、被告会社に本件リース物件を引き渡し、被告会社は、これを受領した旨の借受書を原告に提出し、かつ、本件リース物件の設置場所である千葉県鎌ヶ谷市初富五一六番地の被告会社工場において本件リース物件を指示し、原告会社担当者による引渡しの確認を受けた。

(一) リース期間 昭和五八年一二月三日(借受書交付日)から同六四年一二月二日までの七二ヵ月間

(二) リース料 毎月三八万八000円を毎月一0日まで(ただし、第一回目は借受書交付日)

(三) 本件リース物件設置場所

千葉県鎌ヶ谷市初富五一六番地 被告会社内

(四) 納品予定日 昭和五八年一二月三日

(五) 契約解除 被告会社が①リース料の支払を一回でも遅滞したとき、②手形不渡など支払停止の状態になったとき等には、原告は、催告することなく、本件リース契約を解除することができる。

(六) 規定損害金 リース契約が解除されたときは、被告会社は、原告に対し、規定損害金として、契約始期の基本額二七九三万六000円から支払済みリース料を控除した残額を支払う。

(七) 遅延利息 年一四.六パーセント

(八) 被告会社は、本件リース物件を売主アイコーから引渡しを受けて一週間以内にこれを検査し、その結果を売主に通知し、かつ、その旨を借受書に記載し原告に交付する。

(九) 被告会社は、借受書を原告に交付したときから本件リース物件を使用することができる。

(一0) 本件リース物件の規格、仕様、性能、機能等に不都合、不完全その他の瑕疵があったときは、被告会社は、直ちに売主にこれを通知するとともに、借受書にその旨を記載するものとし、被告会社がこれを怠ったときは、物件は完全な状態で引き渡されたものとみなし、以後一切の苦情を申し立てない。

2 連帯保証契約

被告木島芳邦(以下「被告木島」という。)は、原告との間で、昭和五八年一二月三日、被告会社の原告に対する右リース契約に基づく一切の債務を被告会社と連帯して債務履行の責めに任ずる旨の連帯保証契約を締結した。

3 契約解除

ところが、被告会社は、昭和六二年二月一七日までに支払期限の到来した一三六万二000円のリース料を支払わなかったので、原告は、同月一八日被告会社に送達された内容証明郵便により、前記約定により本件リース契約を解除するとともに、規定損害金残金一三七七万八000円(契約始期の基本額二七九三万六000円から支払済みリース料一四一五万八000円を控除した残額)を支払うよう請求したが、被告会社は支払をしない。

4 よって、原告は、被告らに対し、右リース契約及び連帯保証契約に基づき、右一三七七万八000円及びこれに対する支払催告の日の翌日である昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで年一四.六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実中、本件リース物件が被告会社に引き渡されたこと及び被告会社の担当者が被告会社工場内で本件リース物件の指示をしたことは否認するが、その余の事実は認める。

2 同2及び3の事実は認める。

三  原告の予備的主張

1 本件リース契約は、借主である被告会社と右物件の売主であるアイコーとが物件を特定した上で、原告がアイコーから購入し、その後被告会社にリースしたものである。すなわち、本件リース契約は、いわゆるファイナンス・リースとしての性質を有するものであり、原告が被告会社に本件物件相当額を融資し、その融資額の割賦弁済がリース料の支払としての実質を有する。

そのような実質を有するものである以上、原告がアイコーに対して本件リース物件の売買代金を支払った後は、本件リース物件が被告会社に引き渡されたかどうかを問わず、被告会社は本件リース料の支払を免れることはできない。

2 原告会社の担当者は、昭和五八年一二月三日被告会社所在地へ赴き、アイコーから直接被告会社に納品された本件リース物件について被告会社担当者からの指示を受けて確認したし、また、原告は被告会社から借受書を受領しているし、さらに、被告は、遅延がちではあったが、昭和六二年一月一六日までリース料の支払をしてきたものであり、本訴提起まで被告会社から本件リース物件の引渡しがなかったことの通知は全くなかった。仮に本件物件が引き渡されていないとすれば、被告会社とアイコーとが相通じて原告に対する売買を仮装し、原告をしてアイコーに本件物件の代金を支払わせたものである。しかも、被告会社は、アイコーが倒産して原告において支払済みの代金を取り戻す可能性が消滅した段階になって引渡しを否認し、代金支払を拒んだものである。したがって、このような経緯に鑑みると、本件リース物件の引渡しがなかったとしても、その主張は、禁反言の法理又は信義誠実の原則に反するものである。

四  被告らの反論

1 原告主張1の事実は争う。本件リース契約は、原告がアイコーから本件リース物件を購入し、一定の約定の下にこれをユーザーたる被告会社にリースし、その対価としてのリース料の支払請求権を取得する態様のリース契約であるので、アイコーによる本件リース物件の引渡しは、物件所有者に代わっての物件の貸与行為であり、本件では、この貸与行為が欠缺しているものである。

2 同2の事実は争う。本件は、訴外東京樹脂産業株式会社(以下「東京樹脂」という。)の代表者木島良道が同社の倒産直前にアイコーと通じて、原、被告双方を偽罔し、空売りをして物件代金の騙取をしたものであり、借受書も同じく偽罔に基づき被告会社から原告に交付されたものである。

[反訴]

一  請求原因

1 反訴被告は、本訴請求原因において主張するリース契約を反訴原告と締結しながら、本件リース物件をその納品予定日であった昭和五八年一二月三日に納品しなかったのみならず、本件リース契約が解除された昭和六二年二月一八日に至るまで右納品義務を履行しなかった。

2 一方、反訴原告は、反訴被告に対し、本件リース契約に基づき昭和五八年一二月から同六二年一一月までリース料を支払い、本件リース契約解除時におけるその支払済額は、一四一五万八000円となった。

3 反訴原告の右リース料の支払は、本件リース物件の納品債務履行を前提とするものであるところ、反訴被告はこの債務を履行していないので、反訴被告が右リース料を受領し利得する法律上の原因は存しない。

4 よって、反訴原告は、反訴被告に対し、本件リース契約解除に伴なう原状回復義務の履行として、あるいは不当利得の返還として、本件支払済リース料一四一五万八000円及びこれに対する本件リース契約解除の日の翌日である昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1 請求原因1の事実は否認する。本件リース物件については、アイコーから反訴原告へ直接納品することを反訴原告も承諾しており、反訴原告は、反訴被告に対し、本件リース物件の借受書を提出済みである。被告会社が本件リース物件の引渡しがなかったことを主張することができないことは本訴における原告の反論のとおりである。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一本訴請求について

一リース契約、連帯保証契約及び契約解除

請求原因事実は、本件リース物件の引渡しがあった点及び被告会社従業員が本件リース物件の確認指示をしたとの点を除き、当事者間に争いがない。

二本件リース物件の引渡しの有無

1  〈証拠〉によれば、本件リース契約締結当時、本件リース物件は既に設置場所である被告会社の工場に引渡済みであることを前提として契約が締結されたこと、そのため、契約締結と同時にリース物件借受書が被告会社から原告の担当者に交付されたこと、原告の担当者水口則夫は、当該物件の引渡確認のため設置場所とされていた被告会社工場に赴き、被告会社の工場関係者の立会指示を得て、工場内所在のミシン二二台に原告からのリース物件である旨を明らかとするシールを貼ったことが認められる。被告木島及び証人鈴木桂子は、原告の担当者が工場に確認のため来訪したことはない旨供述しているが、これらの供述部分は、〈証拠〉に照らし、信用することはできない。

右認定事実によれば、被告会社が本件リース物件の引渡しを受けたとの疑いも強い。

また、本件リース料が昭和五八年一二月から同六二年一月まで支払われ、その支払合計額が一四一五万八000円となっていることは当事者間に争いがなく、この事実からも、本件リース物件の引渡しがあったとの疑いも強い。月々の約定支払額は三八万八000円と支払額としては大きく、引渡しがないのにかかる支払を長期に亘ってすることは合理的でなく、引渡しを受けて使用しているからこそ、そのような支出を継続したとの疑いもあるからである。

しかし、〈証拠〉によれば、被告会社には当時バスマット製造用等ミシンが四0台ないし五0台存在したことが認められるところ、本件リース契約に基づく本件リース物件は二二台であるので、その導入があったとすれば被告会社の工場勤務者が知らないはずがないと推認されるが、証人鈴木桂子の証言及び被告木島本人尋問の結果によれば、これまで工場内に存在していたミシンの外今までとは異なる新たな二二台のミシンの新規導入があったことを確認した従業員はいなかったこと及び本件リース物件の大部分(二0台)は六本針のミシンであるところ、この六本針のミシンが被告工場内に存在したことがないことが認められるので、前記したような疑いはあるが、これらを総合すると、本件リース物件の引渡しがあったと認めるには未だ証拠が不十分である。

2  してみると、本件リース物件が被告会社に引き渡されたと認めることはできないから、引渡しがあったことを前提とする残リース料の支払請求は理由がないといわねばならない。

三原告の予備的主張

1  本件リース契約の性質

(一) 原告は、予備的に、本件リース物件の引渡しがなかったとしても、本件リース契約が実質的にはファイナンス・リース契約であるから、原告から本件リース物件の売主であったアイコーヘの代金支払があった以上、引渡しの有無を問わず、支払義務を免れることができない旨を主張するので、この点について以下判断する。

(二) 〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告のアイコーからの本件リース物件の購入価額は二0二七万円であるところ、原告と被告会社との本件リース契約上のリース料の約定支払総額(これが規定損害額である。)は月三八万八000円の七二ヵ月であるので、二七九三万六000円となる。

(2) 原告は、アイコーに対し、昭和五八年一二月一二日、本件リース物件の売買代金二0二七万円を六0日サイトの約束手形で支払った。

(3) 本件リース物件の瑕疵担保責任、期限内保証、保守サービス等は売主であるアイコーが直接ユーザーである被告会社に対して負うこととされており、そのため、原告は被告に対してこれらの点に関しては責任を負わないこととされていた。

(4) 本件リース契約においては、本件リース物件の指定は被告会社によりなされたものの、買主は原告であり、本件リース物件を被告会社が譲渡したり、他人に使用・占有させることは認められておらず、被告会社は、リース期間満了後は本件リース物件を原告に返還する義務があることと定められている。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 以上の認定事実と前記認定したとおりの本件リース物件が既にユーザーである被告会社に引渡済みであったものを契約の対象としたものであるという事実だけでは、本件リース契約が実質的にファイナンス・リース契約であり、リース物件の引渡しの有無を問わずリース料の支払義務が発生するものと認めることはできず、そのほか本件リース契約が実質的にファイナンス・リース契約であると認めるだけの諸事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

してみると、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  信義誠実の原則違反の有無等

(一) 原告は、被告会社がリース物件借受書を原告に交付し、四年に亘ってリース料の支払を継続した後に本件リース物件の引渡しがなかったことを主張するのは禁反言の法理又は信義誠実の原則に反する旨主張するので、以下この点について判断する。

(二) 〈証拠〉によれば、本件リース契約の成立の経緯に関し、次の事実が認められる。

(1) 原告の担当者水口則夫は、親会社である訴外北海道拓殖銀行の蒲田支店の紹介によりアイコーの社長を、次いで同人の紹介により本件契約の連帯保証人となっている東京樹脂の代表取締役木島良道(被告木島の実兄)を知り、右木島良道から東京樹脂の子会社であり、自分が創立し、現在は実弟の被告木島に任せている被告会社にミシンを入れるについてリース契約の締結の申込みを受け、被告会社の決算書を照合し、被告会社がその製品を全部東京樹脂に納品していることを確認した上、東京樹脂が連帯保証人となることを前提として、本件契約の締結に踏み切った。

この際、被告会社の代表取締役の捺印は木島良道において行った。

(2) 被告会社は、昭和五四年一0月に設立され、当初は右木島良道が代表取締役をしていたが、登記簿上は昭和五五年四月から被告木島が代表取締役に就任したこととされている。しかし、被告木島は昭和五九年二月東京樹脂が倒産するまで、同社において営業の見習実習中であり、被告会社の業務執行は実兄の木島良道において処理しており、東京樹脂の倒産時まで被告木島は被告会社の運営に関与したことはなかった。

(3) 本件リース契約締結に際し、水口は、昭和五八年一二月三日、東京樹脂の事務所に赴いて木島良道に面談し、同人から連帯保証人となる東京樹脂の捺印を受けるとともに、同社の取締役会議事録を受領し、さらに、東京樹脂の事務員をして被告会社及び被告木島の署名捺印を取りに行って貰い、本件リース契約についての契約書を完成させた。しかし、その際、水口は、被告木島とは会っていなかった。

(4) 被告木島は、本件リース契約締結の際、木島良道から迷惑をかけないから署名して欲しい旨の依頼を受けて契約書に署名捺印した。

しかし、この署名当時、リース契約の内容、契約当事者欄は空欄であったので、被告木島としては契約内容については知らなかった。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 〈証拠〉によれば、契約締結後の事情に関し、次の事実が認められる。

(1) 原告に対するリース料の支払は、昭和六0年六月分までは遅滞なく行われていたが、その後一時延滞気味となったものの、昭和六二年一月一六日まで支払われ、その当時未納のリース料が九七万円となっていた。

当時、被告会社では、遅滞の理由として、東京樹脂の倒産のあおりで被害を受けたので返済を猶予して欲しい旨述べていたにとどまり、本件リース物件の引渡しがなかったと抗弁するに至ったのは本訴提起(昭和六二年一0月であることは当裁判所に顕著である。)後であった。

(2) 未納額支払の催告を受けた被告会社では、昭和六二年一月七日、それを一年の割賦弁済により完済する旨を原告に約し、その約束に基づく第一回の支払七万円を同月一六日に履行した後、本件リース料の支払をしていない。

(3) その間、昭和五九年二月頃には東京樹脂が倒産し(同社について昭和六二年二月一二日破産宣告がなされたことは当裁判所に顕著である。)、木島良道はその倒産直後から行方不明となり、また、アイコーも昭和六二年一月頃倒産した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四) 以上認定の事実と、前記したように本件リース物件の引渡しがあったと認められないことを総合すると、本件リース契約は、木島とアイコーとが協力し、東京樹脂ないしアイコーの資金調達の一方法として、リース物件の引渡しがないのにその引渡しに藉口して原告に代金を支出させ、それを不正に領得し、その返済を被告会社から支出させようとしたものと推認することができる(その返済の過程で、被告会社と東京樹脂ないしアイコーとの間で何らかの資金調整が行われるものと推測されるが、その内容は本件全証拠によるも明らかでない。)。

(五)  ところで、本件リース契約締結当時の被告会社の業務執行は、木島良道に委ねられていたものであるから、同人において引渡しのないことを了知していた以上、形式上の代表取締役である被告木島や、被告会社の従業員の知、不知を問わず、被告会社は、本件リース物件の引渡しがなかったことを知りながら、東京樹脂ないしアイコーに利得させる目的で本件リース契約を締結したものというべきである。本件の場合、原告の支出した金銭に対する弁済としてリース料の支払が継続されることが想定されていたから、実質的には一時的融資を受けたと同様な関係にあり、関係企業が倒産に至らなければ本件リース料の支払も継続されたものと推測される。

このように物件の引渡しがなく、したがって、支払義務がないことを承知しながら、原告から他人への金銭支出をさせる目的で本件リース契約を締結した被告会社は、偽罔行為の加担者の一人であるから、原告から出捐がなされた以上、信義則上、支払義務を否定することは許されないものとするのが相当である。

確かに、本件リース物件の引渡しについて原告側の調査確認が完全であったとは認められず、針数の違いの確認等より慎重な調査を実施すれば引渡しのなかったことを原告担当者においても発見することは可能であったとはいえるが、被告会社にも偽罔行為加担者としての責任があることのほか、被告会社工場従業員中にも結果的にはこの偽罔行為に協力した者もあること(木島良道の指示により故意に従前から設置されていたミシンを本件リース物件と指示したものか、従前から設置されていたミシンもリース物件であることから、勘違いをして指示したものであるかは明らかではないが、どちらにしろ、結果的には原告担当者を偽罔している。)を併せ考えると、右事情があるとしても、前記判断を覆すに足りない。

(六)  被告木島は被告会社の原告に対する債務につき連帯保証をしているから(前記一)、被告会社が原告に対し本件リース契約上の支払義務を免れることができない以上、被告木島も、被告会社と連帯して契約上の債務を履行する義務があるというべきである。本件リース契約上の債務履行を拒むことができないのは、被告会社がこれに加担したからであるところ、被告木島がこれに加担していたことを認めるに足りる証拠はないが、被告会社の債務は契約上の債務であるにすぎないから、被告木島もその債務の履行について責めを負わなければならない。

四本訴請求についての結論

してみると、被告らに対する原告の請求は理由があるところ、本件リース契約が昭和六二年二月一八日解除され、原告から被告に対し規定損害金残額一三七七万八000円の支払催告がされているから(前記一)、被告らは、原告に対し、連帯して、金一三七七万八000円及びこれに対する支払催告日の翌日である昭和六二年二月一九日から支払済みに至るまで約定遅延利息年一四.六パーセントの割合による遅延損害金を支払わなければならない。

第二反訴請求について

一リース料の支払

被告会社が本件リース契約に基づいてリース料合計一四一五万八000円を支払ったことは当事者間に争いがない。

二不当利得返還請求権の有無

本件リース物件の引渡しがあったと認めることができないことは前記したとおりであるが、他方、被告会社は本件リース契約上の債務履行を拒むことができないことも前記したとおりであるから、被告会社のリース料の支払も契約上義務となっている債務の履行といわねばならないので、反訴原告の不当利得返還請求は理由がない。

なお、仮に被告会社にリース料の支払義務がなかったとしても、前記しているように、被告会社は本件リース物件の引渡しがなかったことを了知し、したがって本件リース料の支払義務がないことを承知しながらリース料の支払をしたものといわざるをえないから、反訴原告の請求を認めるのは相当でない。反訴被告の主張が民法七0五条該当の主張をしているものか否か必ずしも明らかではないが、信義則の面からもかかる事情の下では不当利得返還請求を認容することは相当でない。

第三結論

よって、原告の被告らに対する請求は理由があるのでこれを認容し、反訴原告の反訴被告に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官田中康久)

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